2024年5月7日のことですが、アイビスペイントというスマホのお絵描きアプリにAI学習妨害機能が実装されました。

今日はそのあたりのことについて、思ってることを書いていきます。




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アイビスペイントとは

「アイビスペイントってそもそもなによ?」という方もいらっしゃると思うので、簡単に説明しておきます。
(わたしも詳しく説明できるほどお絵描き界隈に詳しくないので間違いあるかも)

このソフトは、国産の、スマホやタブレットで指を使って絵を描くための高機能お絵描きアプリです。無料でほとんどの機能が使え、サブスク加入でさらに機能が増えるといった感じらしい。
公式サイトの製品説明ページはこちら。



アイビスペイント(ibisPaint)は、「作画工程を動画にして絵を描く楽しさを共有したい」というコンセプトから生まれた、みんなの『描いてみた』をスマートフォンやタブレットで実現するソーシャルお絵かきアプリです。

元々はスマホ特化でしたが、Windows版(有料)も出てるそうな。
作画の過程を動画(タイムラプス)にする機能はこのアプリ特有かもしれません。


アイビスペイントの特筆すべき点ですが、ダウンロード数ユーザー層にあるんじゃないか、と素人ながら思ってます。

資料的なものはコチラ。


ダウンロード数はシリーズ累計で4億ダウンロードを突破 世界累計で3億越えで(2023年1月の公式発表による)(←2024年5月11日修正)、特にダウンロード比率は海外が約90%超となっています。海外進出が難しいと言われるアプリ開発で成功しているって、これはなかなかスゴイことだと思います。


ユーザー層(年齢層)は約60%が25歳未満のいわゆるZ世代と呼ばれる若い層となっています。1990年代半ば以降に生まれた人って感じですね。インターネットは当然のインフラ・PCやケータイ・スマホなどのデジタルデバイスもあるのが当たり前な人達です。

ざっくりまとめると、(スマホペイントの領域では)海外の、これからの世界を作っていく人達に高い支持を受けているアプリということになろうかと思います。


2024年1月の炎上

さて、このアイビスペイント、2024年の1月初旬に大炎上してます。
課金しているユーザー向けに"AIお手本"を搭載したところSNSを中心に火の手が上がり、1日で機能の取り下げに至ったというものです。
わたしはリアルタイムで追っかけていたわけではないので、ここからは調べた範囲の話になります。

反対の人からは、
  • 絵師に喧嘩売ってるのか
  • 生成AIが生成したものを手本にできるか
  • サブスク解約しました さようならアイビス
  • 補助金目当てか?
  • AI学習に使われるんじゃないか
など、かなりキツイ意見が出されたようです。
ちなみにAI学習に使われたりはしません。補助金についてはわたしはわかりません。

逆に、AI推進派(適当な言葉が思いつかないのでこの呼び方でいきます)の人からは、
  • AIアレルギーひどすぎ
  • これだから日本でAIは普及しないんだ
という反応がみられたようです。


ちなみに2022年末に、同じペイントソフトの「CLIP STUDIO PAINT」が画像生成AIパレットの試験実装の予定を発表したところ炎上、数日後に実装中止を発表するという騒動がありました。
なんでもこちらのソフトは商用での使用も結構多いらしく、法整備が進んでいない今の状態でそんな機能実装されたら成果物に炎上騒動が起こるかもしれないじゃないか、という理由もあったようです。
国内ユーザーより海外ユーザーからの反発が多かったようですね。


AI技術自体はすでに実装されている

じゃあアイビスペイントはAI技術やディープラーニングと呼ばれるものを全く使っていないのか、というとそうではなく、使われてます。
証拠というか、資料的なものはコチラ。



インタビュー記事内にでてくるものとして「AI自動色塗り機能」(2017年~)と「AI超解像度機能」があります。
わたし自身はアイビスペイントを触ったことがないので「これだけ」とは言い切れませんが、少なくても2つは実装済みと言っていいでしょう。


なぜこの2つは反発されないのか

「AI自動色塗り機能」も「AI超解像度機能」も、名前に"AI"と付いていますし、インタビュー記事の中ではAIを活用しているしディープラーニングの技術も使っていると明言されています。
なぜ炎上の火種にならなかった / ならないのでしょう。

思うに、この2つの機能は"制作を補助する機能"だからに思えます。

どちらもキャラクターや背景などを直接生成するものではありません。部分的に"制作を補助する機能"です。
イラストやマンガを制作する時に、主体になるのはあくまでも人間 / AIは補助をしてくれるなら歓迎 という人は結構多いのではないでしょうか。
(もちろん"歓迎と考えている人ばかりではない"ことは明記しておきますよ)

キャラクターや背景などを描くという行為自体がイラストを書いている人のアイデンティティに直接関わるものです。そこにはオリジナリティが反映されていることが多いでしょうし、それが画風とか作風と呼ばれるものに繋がっていると思われます。
なのでその領域に足を踏み入れると反発を呼ぶことになるのではないでしょうか。

言葉は少し悪いですがAIくん、でしゃばってくれるなということかと思います。

アイビスペイントのAI学習妨害機能実装の今後の影響

ここからは一般ぴーぽーのオッサンの、割とバイアスのかかった意見/予想になります。ソレをご承知おきの上お読みください。


海外でのシェアがかなり大きく成長し成功しているアイビスペイントがAI学習妨害機能を実装したというのは、今後こういう機能(GlazeやNightshadeやmistなど)を実装するアプリやソフトが増えてくる可能性を示唆しているように思えます。
生成AI機能の実装よりも生成AIを拒絶する方向を望んでいるユーザーが多いということでしょうから、企業的に無視できなくなってきたのではないでしょうか。
海外ユーザーのしかも若い年齢層によって、AI学習妨害機能が望まれ、それが当たり前になっていくという未来になるのでしょう。元々海外では生成AIを規制すべきという意見が多いですから。


反対に、同じように昔から商用ベースでイラスト制作に使われている Adobe Photoshop は生成AI機能への注力を続けているように見えます。
AdobeStockをデータ元として開発して推してますが、AdobeStock自体に版権モノの無断転載が多数アップされているという現状があることは気に留めておく必要があるでしょう。


海外でのAIに対する法整備は着実に進んでいて、EUではAI法が欧州議会で2024年3月に可決され、年内には徐々に施行が開始されます。この法律は2026年春には全面施行されます。この法律はEU域内でAIシステムやサービスに関連する者が対象になります。去年秋からウェブで「Cookieの同意」がバンバンでてくるようになったのもEUでの法整備(GDPR)の結果です。

日本政府も「AIの国際ルールをリードする」なんて言ってますが、ロクに国内議論も行われず法整備も進まないのに何を言ってるんだろうと思います。
すでに実質的に生成AIについての国際ルールをリードしているのはEUです。


日本国内だけなら今のまま放置っていうのもできなくはないんでしょうが、ネットで世界中が繋がっている現代、欧米の規制に進む流れに逆らって日本だけなんの規制もしないというのは無理があるでしょう。
今はどちらかと言うと生成AIを作る側に対して目が向いていますが、すぐに生成AIを使う側に目が向きます。犯罪などに使って実害を生むのは使う側ですからね。生成AIを使う側になにかしらの規制がかかるのは待ったなしの状況でしょう。


オープンソースとして世に出てしまって数年、もう生成AI(含む画像生成AI)を失くすのは無理な話です。それを踏まえると、早急な法整備が必要なのは間違いないように思えます。これについては各メディアの世論調査でも規制を望む声が多数を占めていることから必要なことだろうと思います。


Xでの言い争いを見ていると、極端な規制派と推進派が話し合って落とし所を探って和解できる局面は、もう過ぎてしまったように感じます。出だしで躓きましたね。

もう各々に分化していくしかないのではないでしょうか。

 
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