とある山中での出来頃。
かねてから気になっていた山の展望台に行く機会があり、ひとしきり写真や動画を撮ったり昼御飯のおにぎりを頬張ったりして小一時間を過ごした。
さぁでは次の目的地へ行くか、とバイクを走らせ下山していると、道のほとりになにやら動物のようなものが見える。毛の色は明るい茶色で大きさは猫よりも一回り大きい。
一瞬、車に轢かれた動物の亡骸かと思った。
経験からすると、生きている動物ならすぐに逃げる。野生動物ならなおのことだ。逃げない場合は大抵死んでいる。
しかしその動物、死んでいるわけではないらしい。動いている。2mくらい通り過ぎたところで止まったバイクの上から振り向いて見ていると、だんだん近づいてくる。道路の端の土や落ち葉の中に鼻先を突っ込みながらなにやら探している様子である。餌を漁っているのだろう。
しかし、いくら餌を漁っているとはいえエンジンがかかったままのバイクに近づいてくるのは不自然極まる。普通に考えてバイクに気づかないわけがない。
毛の色からするとハクビシンやアライグマではなさそうだ。顔つきは狸に似ている。顔の模様は狸やハクビシンのそれではない。目から長い鼻先にかけて黒い筋が入っている。丸く小さな耳が見える。
穴熊だ。

更に混乱する。
穴熊はたしか夜行性のはず。山中の道端とはいえ木々の間から陽の光も差し込んでいる。なぜ真っ昼間にこんなところを歩いているのか。
ひょっとしたら病気の個体なのか、それともわたしの認識が違ってるだけで実は日中も行動するのか、実は人間などまったく恐れぬ動物なのか…。
なんてことを考えているうちに、真横まで来た。
顔をまじまじと覗き込み、あぁそれでなのか、と、なんとなく合点がいった。
目がない。
目がない、というのはいささか不正確かもしれない。引っかき傷のようなものが本来目があるべき場所を埋めている。両方の目がそういう状態に見える。
縄張り争いなのか、雌を巡って争ったのか、他の動物にやられたのか、人間に駆除されかかったのか、それともそう見えるだけで実はこういう病気なのか。
そのあたりは定かではないが、どうも見えてないことは確かなようである。
わたしの視線(気配?)に気づいたのか、さすがにエンジンのかかったバイクに気づいたのか、動きが止まる。
そして顔を上げて、わたしの方を向いて鼻でにおいを嗅ぐような仕草をする。
スンスン、と何度かにおいを嗅いだ後、突然びっくりしたように向きを変えて斜面を降りていった。機敏な動きではない。もたもた、のたのたといった感じである。
わたしは、なにかひどいことをしたような気になって、ひどく申し訳ない気持ちになった。
見えていないであろう目と、目が合ったのだ。
バイクを走らせながら、彼のこれからが気になった。
もう目は治らないのだろうか。
ひょっとしたら耳もあまり聞こえないのではなかろうか。
あのまま生きていけるのだろうか。
もちろんそれは単なる感傷で、野生動物の世界に人が手を出すべきではない(たとえそれが助けることでも)ことはわかっているつもりである。捕獲できたとも保護できたとも思えない。捕獲できたとして穴熊を診てくれる獣医など知らない。
とにかく、次の目的地に着くまで、少し暗澹たる気持ちで過ごすことになった。
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かねてから気になっていた山の展望台に行く機会があり、ひとしきり写真や動画を撮ったり昼御飯のおにぎりを頬張ったりして小一時間を過ごした。
さぁでは次の目的地へ行くか、とバイクを走らせ下山していると、道のほとりになにやら動物のようなものが見える。毛の色は明るい茶色で大きさは猫よりも一回り大きい。
一瞬、車に轢かれた動物の亡骸かと思った。
経験からすると、生きている動物ならすぐに逃げる。野生動物ならなおのことだ。逃げない場合は大抵死んでいる。
しかしその動物、死んでいるわけではないらしい。動いている。2mくらい通り過ぎたところで止まったバイクの上から振り向いて見ていると、だんだん近づいてくる。道路の端の土や落ち葉の中に鼻先を突っ込みながらなにやら探している様子である。餌を漁っているのだろう。
しかし、いくら餌を漁っているとはいえエンジンがかかったままのバイクに近づいてくるのは不自然極まる。普通に考えてバイクに気づかないわけがない。
毛の色からするとハクビシンやアライグマではなさそうだ。顔つきは狸に似ている。顔の模様は狸やハクビシンのそれではない。目から長い鼻先にかけて黒い筋が入っている。丸く小さな耳が見える。
穴熊だ。

更に混乱する。
穴熊はたしか夜行性のはず。山中の道端とはいえ木々の間から陽の光も差し込んでいる。なぜ真っ昼間にこんなところを歩いているのか。
ひょっとしたら病気の個体なのか、それともわたしの認識が違ってるだけで実は日中も行動するのか、実は人間などまったく恐れぬ動物なのか…。
なんてことを考えているうちに、真横まで来た。
顔をまじまじと覗き込み、あぁそれでなのか、と、なんとなく合点がいった。
目がない。
目がない、というのはいささか不正確かもしれない。引っかき傷のようなものが本来目があるべき場所を埋めている。両方の目がそういう状態に見える。
縄張り争いなのか、雌を巡って争ったのか、他の動物にやられたのか、人間に駆除されかかったのか、それともそう見えるだけで実はこういう病気なのか。
そのあたりは定かではないが、どうも見えてないことは確かなようである。
わたしの視線(気配?)に気づいたのか、さすがにエンジンのかかったバイクに気づいたのか、動きが止まる。
そして顔を上げて、わたしの方を向いて鼻でにおいを嗅ぐような仕草をする。
スンスン、と何度かにおいを嗅いだ後、突然びっくりしたように向きを変えて斜面を降りていった。機敏な動きではない。もたもた、のたのたといった感じである。
わたしは、なにかひどいことをしたような気になって、ひどく申し訳ない気持ちになった。
見えていないであろう目と、目が合ったのだ。
バイクを走らせながら、彼のこれからが気になった。
もう目は治らないのだろうか。
ひょっとしたら耳もあまり聞こえないのではなかろうか。
あのまま生きていけるのだろうか。
もちろんそれは単なる感傷で、野生動物の世界に人が手を出すべきではない(たとえそれが助けることでも)ことはわかっているつもりである。捕獲できたとも保護できたとも思えない。捕獲できたとして穴熊を診てくれる獣医など知らない。
とにかく、次の目的地に着くまで、少し暗澹たる気持ちで過ごすことになった。

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